「9番目の島」
10cm × 60cm
aqyla and acrylic on acrylic plate
2014
終末医療を行なっている ふるたクリニック(神奈川県)さんでLOOP企画の展示をすることになった。訪れる患者さん達の多くは死を現実のものとして受け入れる準備をしている。患者さんだけでなく治療に関わる人たちも含めて緊張感を持った医療現場を尊重した作品の提示の仕方が大切だと思う。
最初にイメージしたのは「天使」だった。当時、画家のパウル・クレーに傾倒していた。クレーは街の景色に天使を住まわせた。連なるトンガリ屋根が羽になり、建物が身体になり、太陽や月が頭になった。
私には「死」を考えることは出来ても「死」と向き合うことは実感出来ない。神に仕える天使は宗教観を超えて現代まで生き続けている普遍的イメージの一つだが、天国や神の秩序を象徴するものとして「天使」を捉え、日常生活の秩序と共有できるイメージとして規則的な分子配列を持つ「結晶体」が浮かんできた。死を意識することは複雑に絡まり合う人生を規則正しく配列し直していくことであり、それは、生活の秩序を取り戻すこと、体の秩序を取り戻すこと、人生を取り戻すことに繫がるのではないかと考えた。
「9番目の島」は、英語の慣用句から引用した。天使のイメージを結晶体に置き換えたのち、形体の頂点を上にして眺めた時に見える山型の形が海に浮かぶ氷山のようにも見えて、死を見据える人の意識の頂点(心の寄り代)のようにも感じられたこと、そして過去3回ホスピタリティ展に出品してきた作品の規則性を持った色彩と形体の感覚とがピタリと当て嵌まった。
作品に使用した素材には院内の合理的な設えに溶け込むようアクリル板と発色の良い絵具を使用した。アクリルマウントされた絵柄は院内の壁に設置された案内板と似た性質を持っているが、標識や表示ではないし、額絵でもない。見る人を巻き込むことなく、遮ることなく、シンプルなイメージをそっと眺める時間を作りたかった。